
CFRP(炭素繊維強化プラスチック)は、軽量で高強度な特性を持ち、航空機や自動車、産業用部品に幅広く使用されています。一方で、「CFRPは燃えるのか?」「火災時に構造が崩れてしまわないか?」といった疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。
この記事では、CFRPの燃焼特性や火災時の安全性、燃焼による有害物質のリスク、廃棄処理に関する環境面の課題について解説します。
廃棄・処理における環境面の課題についても触れていくので、CFRPの安全性が気になる方はお読みください。
Taigaで技術提案を受ける目次
CFRPは燃える素材なのか?

CFRPは、炭素繊維と可燃性の樹脂(エポキシ樹脂など)で構成されています。したがって、使用条件によっては燃焼します。ただし、CFRPが燃える場合でも、炭素繊維自体は約2000℃まで耐えられる高耐熱性を持ち、完全に燃え尽きることはありません。
強度の低下は、主に樹脂部分が200〜300℃で熱分解を起こすことによって起きます。
この章では、融点と安全性の面からCFRPは燃える素材か確認していきます。
融点で比較
CFRPと他の金属がどのくらいの温度で強度が低下するとされるのか、以下の表にまとめました。
CFRP | 200度前後 |
ジュラルミン | 700度 |
アルミ | 600度 |
鉄 | 1500度 |
上記の表を見ると、他の金属に比べるとCFRPの融点がかなり低いため、燃えやすいように思えます。
しかし、CFRPが他の金属に比べて200℃前後で強度が低下するのは、炭素繊維自体ではなく、樹脂(エポキシ樹脂など)の熱分解温度が原因です。
CFRPを構成する炭素繊維そのものは、非常に高い耐熱性を持ち、約2000℃の環境でも性能を維持します。一方で、マトリックスとして使用されるエポキシ樹脂は熱硬化性であるため、200〜300℃付近で分解が始まり、結果としてCFRP全体の強度が低下します。
この特性から、CFRPが燃えやすいように思えるものの、融点の比較だけでは、実際の使用環境での性能を正確に評価することはできません。
事例:航空機火災でCFRPが機能した実例
2024年1月2日、日本航空516便(エアバスA350)が羽田空港で衝突・炎上した事故では、機体にCFRPが使用されていました。乗客379人全員が無事に脱出できた背景には、CFRPが火災中も形状を保ち、脱出ルートを確保した可能性が指摘されています。
火災発生後6分で脱出が始まり、12分間機体が崩壊せず形状を維持したことは、CFRPの特性を象徴する例です。
CFRPが安全な素材と言える3つの理由
CFRPは、その軽量性と高強度を兼ね備えた特性から、多岐にわたる分野で利用されています。しかし、それだけではなく、安全性の面でも多くの優れた特性を持つ素材です。
ここでは、CFRPが安全な素材と言える理由を3つ紹介していきます。
- 急激な崩壊が起きにくいから
- 長期使用しても劣化が少ないから
- 振動を吸収しやすいから
急激な崩壊が起きにくい
CFRPは急激な崩壊が起きにくいことから、避難時間の確保ができるなどの面で安全な素材と言えます。
実際に、CFRPを使用したエアバスA350が炎上した際、379人の乗客全員が無事脱出できたのは、CFRPの燃え尽きにくい特性が影響した可能性があります。
今回の事故で、乗客が脱出を開始したのは火災発生後約6分経過してからで、機長が最後に機を後にするまで約12分間かかっていますが、機内にまで火の手が回ったのはその後だといいます。
この事例から、火災時でも形状を維持し機体が崩壊しないことがわかります。CFRPを使用することで、避難のための時間を確保しやすくなります。
長期使用しても劣化が少ない

CFRPは、長期間使用しても劣化が少ないため、長期使用に向いている素材と言えます。劣化が少ない要因としては、CFRPの耐候性や耐腐食性、疲労耐性などの特徴があるためです。
耐候性や耐腐食性に優れていることで特に、湿気や化学薬品に対する耐性が高く、これらの要因による劣化が少なくなります。
また、優れた疲労耐性を持ち、繰り返し荷重に対しても耐性があるため、長期的な使用においても構造的な強度を保つことができます。
金属とは違い、金属疲労のような突然の破壊が起きにくいことも安全性を考えるうえで重要なポイントです。
高い耐久性で安定した性能を維持できるCFRPは、安全性が求められる航空機や自動車、風力発電ブレード、などの重要な構造物に幅広く採用されています。
振動吸収性が高い

CFRPは振動吸収性に優れている点も、安全な素材と言える理由になります。振動を吸収しやすいことで、衝撃時の安全性が高くなり、構造的な損傷を軽減する働きがあります。
また、航空機や自動車などに使用する場合、乗員への衝撃を緩和できることも特徴の一つです。
さらに、振動吸収性が高いCFRPは、機械や設備の疲労を抑え、寿命を延ばす効果もあります。この特性により、長時間の使用が想定される機械部品や建築物など、過酷な条件下で使用される構造物にも最適です。
有害物質の放出リスクと環境配慮
CFRPを高温で燃焼させると、発がん性のある有毒物質が発生するという研究結果があります(※ドイツ防衛大学、フラウンホーファー研究所調査)。
(引用元:https://cmcre.com/wp-content/uploads/2014/09/20140818carbonfib_2.pdf)
また、ドイツ防衛大学以外にも、ハノーヴァーにあるフラウンホーファー研究所からもCFRPを炎上させると素粒子が飛び散り、呼吸器の粘膜や皮膚を傷つけ、発がん性要因になる確立が非常に高いとの発表もあります。
そのため、CFRPを使用・製造・廃棄する際には適切な安全管理と排気対策が求められます。
CFRPの廃棄・処理方法
CFRPはその特性上、焼却処理が難しい素材であり、現在ではほとんどが埋め立て処理されています。焼却処理には多くの燃料を要し、結果として膨大なエネルギーコストが発生するため、環境への影響が懸念されています。
また、CFRPの廃棄物を適切に処理しない場合、有毒物質の排出や環境汚染を引き起こす可能性がある点にも注意が必要です。
CFRPの再利用には高度な技術が必要であり、今後は、環境負荷の低減に向けたリサイクル技術の進展が期待されています。
まとめ
CFRPは樹脂部分が熱に弱い一方で、炭素繊維自体は高耐熱・高耐久で安全性の高い素材です。火災時の形状保持、劣化のしにくさ、衝撃吸収性など多くの利点があります。
ただし、燃焼時の有害性や廃棄時の環境リスクを理解し、適切な使用と管理を行うことが重要です。
CFRP加工・製造ならTaigaへご相談ください
CFRPを活用した部品製造を検討している方は、ぜひ「Taiga(タイガ)」をご活用ください。
「Taiga」は、部品製造をスムーズに依頼できるプラットフォームです。
設計から試作、量産まで、板金、切削加工、3Dプリントなど幅広い対応が可能で、スピーディかつ高品質な部品製造を実現します。見積もりや納期管理も簡単で、エンジニアや設計者の負担を大幅に軽減。信頼できる製造パートナーをお探しなら、ぜひ「Taiga」をご利用ください。
難易度の高い部品や新規部品の開発、少量生産、試作から量産まで、コストを抑えつつ効率的に進めることが可能です。
Taigaで技術提案を受ける